将来が全く予測できなくても計画は必要なのか?
前回は
「先が見えない時代だからこそ計画が必要」
ということで、計画について基本的なことをお伝えしました。
今は一寸先が見えない時代と言われています。
しかし先が見えないからこそ計画が必要です。
計画を持たずに場当たり的な経営をすれば状況に追われるだけになります。
見えない時代だからこそ、こうなったらどうするといった備えが必要になるということです。
しかし、そうはいうものの、こういう疑問を抱く方もいらっしゃるかもしれません。
・環境変化が全く予測できないときはどうすればよいか?
・売れるか売れないか全く予想がつかない場合はどうすればよいか?
・そういう場合でも嘘っぽく見える計画を作らないと駄目なのか?
大災害やコロナ禍のような状況が発生したときのように、
売上が前年比90%減という事態が発生した場合、
どんな経営計画を作ればよいのでしょうか。
例えば、半導体事業などは、今や1000億円のギャンブルと言われています。
製薬事業も200億円のギャンブルと言われています。
こういったリスクが大きい事業分野では計画が必要といわれてもどうすればよいのでしょうか。
それから、いわゆるエンタメビジネス(映画、音楽、ゲームなど)も水物といわれています。
映画も音楽もれっきとした大企業や中堅企業がやっていますが、そんな企業の仕組みはどうなっているのでしょう。
不確実性が高いといわれている分野ではどんな計画、
コントロールのシステムになっているのでしょう。
先がわからないというのであれば、新規事業などもそうですね。
やったことがない事業で未来を予測するというのは非常に難しいです。
2年後の売上は今の10倍かもしれないし、0かもしれない。
また、ベンチャー企業が立てる計画というのは、
往々にして常に右肩上がりですが、実際に右肩上がりになることはほぼありません。
散々たる結果に終わることが多いのが実情です。
このように不確実性が極めて高い企業の場合、
計画システム、コントロールはどうあるべきなのでしょう。
今回は以下の4つの方法をご紹介します。
1.長期計画を持たない
手順を決めておくことは必要なので、
目先の極めて短期的な実行計画は作ります。
ただし中長期計画は作りません。
現場の実行計画のみで、長期計画と予算を遮断します。
通常、中長期計画と予算はリンクしています。
中長期計画の1年目が実行予算になります。
しかし不確実性が高い場合は、そのリンクを遮断します。
中長期計画を単年度予算とリンクさせようすると、
どうしても非現実的な長期計画となってしまいます。
であるならば、長期プランをあえて持たない、
またはトップ層の一部のみが長期構想を持って下位組織を縛らないようにします。
現場では極めて短期間の実行計画が作られます。
なお、放っておけばよいというわけではありません。
セブンアンドアイホールディングスの鈴木元会長は
「中長期計画はいらない」
といっていたそうです。
トップが中長期計画で現場を拘束しないで、現場に権限移譲しました。
現場では翌日からせいぜい数か月先の発注計画だけで動いていました。
アメーバ組織で有名な京セラも一緒です。
アメーバ組織に自律性を持たせて、現場は日々の短期実績で動くメカニズムになっています。
京セラにアメーバ組織を統率する実行予算は存在しません。
ただしトップが作る構想図、たとえば新規事業への進出、あるいは事業の再構築、M&Aなどはそれとは別に作られています。
2.計画作成は将来構想を共有する手段と割り切る
まず、トップから現場に至る組織全員できちんと計画を作ります。
しかしこれを実行予算にはしません。
予算をコントロール目的に使わないのです。
だから現場に数値目標の達成を強要しない。
いわばこれは計画とコントロールを遮断するやり方です。
つまり構想の共有と実行計画を天秤にかけた場合は、
構想の共有を大とみなすということです。
たとえばソニー・ミュージックエンタテインメント
では、構想を共有するために、長期計画や予算を
議論し、ここにかなりエネルギーを投入するそうです。
ただし計画が出来上がったらその計画のことは即忘れるルールとなっています。
音楽事業というのは人間的な事情で状況が変わります。
たとえば歌手が病気になったら楽曲の発売計画は狂ってしまいますね。
またあるときは突然大ヒットする。
そんな業界で予算を実行計画として使っても意味はないと考えていました。
予算で現場コントロールするというのはこういう業界では適切ではないということです。
とはいえ消費者の趣向が大きく変化する業界だからこそ消費者を見据える目というのは求められます。
音楽産業の強力なライバルはゲームやスマホなどといわれています。
それらに対してどんな戦略で対応するかという構想は全社的に共有すべき重大事項。
したがって真剣に過去の実績分析や、あるべき計画作成を通じて議論が交わされます。
この計画プロセス自体をまさに構想を共有するコミュニケーション手段という風に割り切っているのです。
3.最悪のシナリオだけ設定する
ベンチャーなどではこのやり方が使われます。
予想がつかない新規事業で上手くいった場合の売上を皮算用してもあまり意味はありません。
それよりも大切なのは失敗したときの備えです。
最大どのくらいの損失を覚悟すべきか。
失敗したときの対策はどうすべきか。
撤退のタイミングはどうすべきか。
こういうリスク管理の方が大事です。
予想できる事態にそれぞれ対応する複数の計画。
これをあらかじめ立てておくことは危機管理の基本です。
この考え方は通貨危機や為替変動、
あるいは戦争といった市場の劇的な変化を予想する場合にも使われます。
経営だけではない、汎用性の高い考え方です。
いわゆるコンティンジェンシープランです。
4.トップが将来を描き切る
いくら不確実性の要素が強いといっても展望が
示されないと現場は思い切った行動をとれません。
トップの戦略に明快さを感じないのであれば、
社員の情熱も盛り上がりません。
そんなときトップが勇気を出して確信犯的に将来計画を描き切ってしまうというやり方です。
たとえば
10年後には1兆円の市場が開かれるに違いない、
10年以内に既存製品は全て新製品に置き換わるはずだ、
この長期計画は絶対に実現するなど。
このように自信を持って将来を描いてしまいます。
こうすることで従業員は安心して行動できます。
もちろん、その予想が外れた時の責任はトップが負うことになります。
先が見えない時代にはこういった思い切った方法もあります。
ソフトバンクの孫さんが得意としていますね。
トップたるもの、目的を明確に指示することが重要ということです。
以上、将来が全く予測できないときや、
リスクが高い事業における計画作り、コントロールの仕組みについてお伝えしました。
参考になれば幸いです。
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